2011年5月23日月曜日

Rolfingの恩師Lael Keenへのインタビュー(抜粋)

現在行われているソマティックエクスペリエンス上級トレーニングの先生は,Lael Keen女史です。Laelは,The Rolf Instituteの教員でもあり,私のロルフィングトレーニングUnit 2の先生でした。彼女から学んだのは,1997年ボールダーでのクラスで,私がこの先生の教えるRolfingなら自分でやってもいいなあと思った,とても印象的なクラスでした。


その後,2009年に彼女が,日本のクラスを教えるために来日した折に,日本ロルフィング協会の企画でインタビューする機会があり,私が聴き手を務めました。その記事の抜粋を以下転載します。

過去のロルフィングの様子や,その推移を垣間見ることができます。


(田畑)今日一番聞きたいのは、今のプラクティスに至る経緯と、その中で日本の生徒がこの先プラクティスを深めるのに役立つ情報をLaelの口から聞けるといいなと思っています。私はユニット2で1997年にLaelから学んだんですけども、その時に非常に思ったのは、受け手のフィールドをすごく尊重して丁寧にワークする、具体的には、ワークしてテイクバックして変化を見守ってまたワークするという、その時間の流れをスローダウンするようなのが非常にユニークだとその時思いました。今はその時とずいぶん変わっているとは思うんですけど、何かそういうプラクティスのスタイルになった経緯を聞かせていただければと思います。


(Lael Keen)私はロルフィングのコミュニティの中で生まれ育って、すごく小さい時にロルフィングを受けました。私はいつもロルファーになることに興味はあったのですが、その当時はすごく痛みの強い、暴力的とも言っていいようなワークがされていました。自分の身体の中の変化を感じることができたのでロルファーになることに興味はあったのですが、一方で、自分がロルファーとなった時にワークしているなかでその痛みを人に与えることは想像できなかったので、そのことを恐れていました。その後またロルフィングを受けて、その時にはロルファーが痛くないワークをしてくれたんですね。それで実は痛くないワークのほうが効果もあるとわかり、ロルファーになりたいという気持ちが強まりました。

ロルファーとなって5年か6年後にPeter Levine 博士のソマティック・エクスペリエンスというワークを知りました。それによって私のワークは変わっていったと思います。ソマティック・エクスペリエンスというのは、クライアントのコアから生まれてくる自己調整機能というものにとても着目しているんです。ソマティック・エクスペリエンスのワークの中で、過去のトラウマが活性化されてきて、またそれがディスチャージされていくという波が見えることを学びました。


私のロルフィングのワークでは、手を置いてワークをして、そうするとクライアントの身体の中でひとりでに変化の波が起こっていくんですね。それを待ちます。一度手を離してそれを待ちます。私がワークを続けるより、クライアントが私のワークを受けてその後それをさらに深いところまで自分の身体の中で持っていくので、それまで私は手を止めてそれを待っています。そのほうがあちこち触っていくよりも良い変化が起こっていくんです。今ヒロさん(田畑さん)が、私がクライアントのフィールドをすごく尊重して時間をかけて待っているとおっしゃってくれましたが、それはソマティック・エクスペリエンスから来ていると思います。


(以下略)


彼女のロルフィングに対する姿勢は,私のロルフィングにとても影響しています。

そして,Laelから学んだことを誇りに思っています。



2011年5月10日火曜日

被災地での実際のワーク

5月9日(日),宮城県七ヶ浜国際村での支援活動の中で,5人の方にワークする機会を得ました。

災害時のストレスによる過剰な神経系の高ぶりによりチャージされたエネルギーを解放しつつ,グラウンディングを促すためにタッチを多用しました。一人当たりのワークする時間は,約15分〜25分程度でまとめました。

Case A

70代女性。岩手で被災。津波に流され,左脛骨を骨折,手術が不可能だったため固定のまま入院を続け,先週退院したとのこと。骨折した側の脚をかばうためか,反対側と上半身に慢性的な緊張が常にあるとのこと。会場入り口でご家族でいるところに話しかけてワークを受けてもらうことに。
ワークの内容: まず骨折していない右側の足のグラウンディングをタッチにより誘導する。大腿部が座面に預けられように,そして足が地面を捉えやすい状態を引き出す。解放が起き,触れていない側の骨折した足裏や足指に感覚が回復。足裏が地面に吸い付いているかのような感覚が出してきた。
次に両手が温かい感覚(解放のサイン)が出てきて,肩から手,お腹から骨折した足の方向に何かが流れる感覚もでてくる。そこで,上半身が楽になり,座っていることがとても楽に感じるとの感想。骨折箇所に実際に触れることはなかったが,反対側で起きはじめた反応がいつのまにか別の側にも移行したようだ。それと同時にさらに左足の支えがしっかりしてきて,突然,木々の若い葉の匂いが強烈に感じられるという。こうした感覚が急に回復することは,トラウマのエネルギーが解放された場合に頻繁に起こる。ご婦人はしみじみと,震災後はじめてこんなゆったりした気分を味わえたといって喜んでいた。
木々の匂いに突然気がついたその瞬間は,閉じていたシステムが開いた感動的な場面で,思わずワークしている私も目頭が熱くなった。
私の横では,SE仲間でロルファーでもある重さんが,ご婦人のだんなさんを芝生まみれになりながらワークしている。ときおり目の前を通り過ぎるお孫さんを見るご婦人の目はとてもやさしかった。

Case B

70代女性 膝に痛みあり。
ワークの内容: 支持の充実のためにふくらはぎに注意を向けてもらう。しばらくして,足にかけて何かが流れる感覚がでてくる。両脚の重さの感覚をタッチを通して感じてもらうことで,次第に上半身の緊張が解けて深い呼吸と楽な感覚を取り戻す。顔がやや赤くなる肌の質感と色に変化が生じた。膝の痛みは消失していた。
最終的にSEメンバーの腕章をしているMiwakoさんに,ニコニコと話しかけ、「私はこれやってもらって幸せだったよ。ありがとうね。」と報告を受ける。

Case C

20代男性,災害を研究テーマにしている大学院生 ここでワークを受けた災害ボランティア仲間から評判を聞いたとのこと。
どろかきを志願して応募したが,避難所のボランティアに配属され,そこで自分が活かせず,無力感と疲労を感じていた。

ワークの内容: 足を感じてもらうと楽な感覚がでてくる。ふとももに不思議な感じが出てきて呼吸が入ってきた。→足を支えることで,肩が楽に感じる。そのとき,被災地に来たけど、思っていたより大変ではないため、自分がボランティアに来たことに対して疑問を感じて肩に力が入っていた、という気づきがでてくる。さらに楽な感じを感じていると,視界に入ってくる木の揺れる様子が心地よいとのこと。視界右側にある避難所をみると、身体のいい感じが持続しない。左側の楽な感じと右側の感覚を行き来し、ちょうどよいところを探してもらう。結果として,久しぶりに楽な感じ。

別のチームメンバーの一人のMiwakoさんが, "肌がピンク色になりましたね" と声をかけると、" 健康的なときはそうなんです、久しぶりに自分の感覚が感じられて、自分のことをあんなふうに扱ってあげようと思いました。 " と返してくれたとのこと。



Case D
50代女性,保健師。午前中にアレが行ったパラシュートゲームに参加。そこから,胸に重い感覚が残る。
ワークの内容: グラウンディングを促す。胸に黒くて重い感覚があり,その感覚が出たがっているように感じる。のどのつまりが感じられ,金色で内側は黒い、重い感じがある。父に虐待を受けたときのイメージが浮かぶ。玄関のイメージから,顔の表情が緩んできた。玄関に対する印象は、祖母が亡くなった悲しい場であると思っていたが、いい場所でもあったのだということに気づく。そこから,脚に震えがでてきて,深呼吸すると,首を通して呼吸が上に入ってくる感じ。ここで出発する時間となったが、「震えているけど、楽です。」と報告し、明るい顔で終了に至る。

チームのMiwakoさんに帰り際に、 " 本当にありがとう、よかったです。いろんなセラピーを受けてきたが取り組めなかった虐待のフラッシュバックに取り組め、この短い時間で手放せました。これからもSEをやっていきたいです。" と報告。テーマは,震災とは関係なかったが,それ以前から抱えているトラウマは皮膜で覆われ,何かのきっかけで,それが破られ,奥から浮上することがあるらしい。今回はそれを表す典型的な例である。


他のチームメンバーも時間的及び場所の制約の中でワークに最善をつくした。受けて頂いた方々から,安全な感覚が得られた,ほっとする感覚を取り戻した,楽な身体を思い出した,視界がはっきりした等の多くのフィードバックをいただいた。,受け手となる人々を確保し,それぞれ適材適所で他のメンバーにつないだりと,メンバー間の連携は実にすばらしかった。



被災地での活動のヒント

スマトラ沖地震や四川省の地震などの災害支援を国際的に続けてきた,アレ・デュアルテをリーダーとする支援チームに参加する機会を得ました。彼は,札幌でGW中に行われた上級SEトレーニングのアシストも務め,ロルファーでもあります。 日本でのSEの第一人者,藤原千枝子さんの呼びかけと地元の招きで実現したもので,今回私も他のSEトレーニング仲間5人と共に合流させて頂きました。この5月7日,8日と宮城 七ヶ浜での活動を通じてアレから学んだいくつかの知見をご紹介したいと思います。これから,災害ボランティアとして現地入りをされる気持ちのある方に役立つと思います。

現地入りするに際して大切なこと,自分への問いかけ

1.自分がグラウンディングし続け,他者を援助する側であり続けられる状態にあるかどうか?

現地入りして自分が助けを求める側に転じては本末転倒です。アレはこれまでの支援の中で,何度もチーム内でそれが起きたことを経験しているとのこと。

2. そのクライアントまたは受け入れ団体は,自分が提供するものを受け取ることに適合しているかどうか?

まず,現地入りして大切なのは,その場所での関係性づくり。ただし,最初の受け入れ先が適切かどうかは慎重に見極めなければならない。これをとっかかりとして,ワークする場が確保されます。すでに,それが確保してくれる受け入れ先との関係性が確立している場合はラッキーです。
残念なことに,受け入れ先にとんでもない人間が絡んでいることは珍しいことではありません。宗教がかっていたり,ある種のセクト主義者だったりといろいろです。中には,嘘つきや悪党も実際に存在します。(例:これまできたドイツ人は大勢でやってきて子供を怯えさせた等)その場合は,受け入れ先が,いろんな形でこちらの活動を制約させながら,こちらを一方的に利用する意図が悪質に働きます。まず,それを見極め,信用できないことが判明した時点で,早急に気持ちを切り換え,次につなぐための下地をつくりつつ,その時点で妨害となる人物と戦うことを避けながら,ゴールを見失わないことが大切。

3. 政治的或いは様々な思惑と交渉することにエネルギーを浪費するが,自分の手が,必要とする人達に届くことがゴールであることを見失わないこと。

ゴールはあくまで,被災者にこちらの手が届くことである。チームとして機能するように,必要に応じてミーティングしながら,ゴールへの方向付けを忘れないこと。

4.いつ,ワークを初めて,いつそこを引き上げるか?

5. 何人まで,或いは,どのくらいまでそこでワークするのか?

自分の許容量の目安,或いはどのようにそれを設定したらよいかは,個々の感覚と基準に頼るしかありません。
これなしでは,求めに応じるだけ応じて,燃え尽きてしまい,日常への復帰が困難になります。
自分としては,自分の中がクリアかどうか?を今回基準としました。
また,震災前に受けたトラウマが何かのきっかけで浮上することがあります。その場合には,その一回のワークで受け手の方が統合する必要があるので,内容を掘り下げるのは,その支援の場で行うべき対象ではないので,グラウンディングやリソースとつなげることに焦点を置くべきだと思います。

6.チームで行動する際に,技法の優位性や個人への批判に焦点を当てずに,ゴールを全員が向いている。

これもアレからの話ですが,チーム内部で,テクニックの優位性の主張や,個人の間の批判,対立は常に起こるとのことでした。

7.最終的に,自分が充実した”いい状態”で,そこを去ることが最も大切。

これは,最も盲点になりやすい点で,アレも何度も強調していました。これなくしては,二度と支援に参加することはないでしょうし,燃え尽きてしまった場合は,何日も鬱状態が続いたりする危険性があるとのことでした。
今回の支援では,チームのメンバー全員が,制約や困難にも関わらず,やれることを全部やって,充実した体験を胸に帰宅することができました。

8.特定テクニックだけを提供するのではなく,それを超えた自分のすべてをニーズに合わせて提供する。

現場で提供するのは,型にはまったやり方では役に立たないでしょう。相手も様々な条件に合意した上でオフィスにくるクライアントとは異なり,被災地の方がワークさせてくれるかどうか?の交渉は一から始めなければいけません。一個の人間として,対峙する必要があります。押しつけず,かといって引いてばかりでもなく。

9. Be gentle, Be patient and Big Heart !

アレが適材適所で指示を出す中で何度も口にしていた言葉です。
すばらしい野郎でした。

10.その他

仙台はとにかく風が強く,復旧中の場所からの粉塵が俟っていて,目や呼吸器に負担がかかるので,放射能以前にマスクは持参した方がいいです。SEやロルフィング他,技法/療法によっては,解放に伴って,さまざまな自働運動や傍目からみると奇異に映る反応もでることから,それを行ってもいい環境を確保する必要があります。避難所は,公共の場でありながら,居住されている方にとっては,家の一区間でもあるので,場所の確保は容易ではありませんし,バウンダリーを超えてしまう可能性は常にあります。しかしながら,被災者に実際に手が届き,トラウマの解放の手助けができたなら,その行為が管理側の制約の枠に出てしまったとしても,恩恵はそれを上回ればいろんなことは帳消しになるし,それは実際のワークでしか返せないと思った次第です。

2.の補足として,受け入れ人物の見極め方として,以下の徴候があれば疑わしいです。

何かと恩着せがましい言動が目立つ。
反対意見をいうと,異常な神経の高ぶりと興奮をもってそれを押さえつけようとする。
これまで受け入れたグループを悪くいう。
子供を落ち着かせるのに,お菓子を使う。→子供の健康を考慮していない。
受け入れたグループが提供する機会をなるべく制限しようとする。講演時間を短縮したり,個人のワークを制限してくる。
結局の目的は,自分達がやっていることが一番であるということをアピールすることに優先順位がある。従って,新しく提供されるものから学ぼうとする姿勢は感じられない。
そこで提供されたものは,自分たちが表にでないところで恩恵を受ける行動表を作成している。
取り巻きの人間が逆らえないように巧妙にコントロールしている。
事前に子供達に指示を出しておき,全員が参加しないよう予め設定しておく等。