2011年3月30日水曜日

震災翌日に

震災の翌日3月12日の朝に予約を入れていたクライアントの方は,その日が初回で,何事もなく彼はロルフィングのセッションにいらした。電話回線の混雑で連絡をとりようにも取れなかったのだが,あまりの彼の落ち着いてオフィスに入ってきた感じに,驚くばかりだった。後日その理由を尋ねたところ,彼は家では日頃からTVのコンセントは抜いていて,つけっぱなしにすることはなく,必要なときに必要なだけコンセントを入れてTVを見ることが習慣になっているという。震災時もインターネットで津波の映像を知ったが,それをTVで見続けることもなく,揺れを感じた以外は日頃と同じ生活を続け,家族全員が全く精神的な動揺はなかったのだという。むしろ,ニュージーランドや四川省,スマトラ沖の地震など世界各地でそういった自然災害は常にどこかで何年かに一度は起きていて,それがたまたま日本に起きたということに過ぎないと思ったそうで,被災された方々には本当に気の毒だが,決して特別なことが起きたというインパクトはないと仰っていた。

メディアに影響されることなく,一歩引いたところで,グローバルかつ冷静に捉えるためには,少なくとも必要な情報を必要なだけ取り入れることを心がけるしかない。

メディアの害といえば,過去に沼津の群発地震を経験された方で,震災後3日間一人でTVを籠もって見続けて完全に調子を崩したクライアントの方もいた。彼は思い切って外に出て歩いてみたら,気分が戻ってきたとのこと。動くのはとても大切だ。

リピートされた悲惨なTV映像の害で,食欲不振や不眠などの変調に悩む方が都心で続出しているらしい。

もうこの場所に居ると腹で決めたのなら,むやみに放射能を恐れず,しっかり呼吸して動いた方がいい。放射能の有無に関わらず,体内ではいつも秩序を保つための制御系が働いている。DNAは傷ついてもDNA Polymerase Ⅰによって修復され,ガン化の恐れのある細胞は,ナチュラルキラー細胞などの免疫担当細胞によって排除される。実に巧妙なシステムである。こうした免疫系は,精神状態が密接に関わっていることがわかっている。

つまり,気分をよく保てば,免疫もよく働いてくれる。過敏によくわからないものをびくびく恐れているより,ずっと健康につながるはずだ。

また,人には他者を助けたいという衝動が備わっているらしい。ニーズやタイミングをよく見ておく必要があるが,何かしたいという衝動があったら,それを発散できる何らかの動きをした方がいいだろう。エネルギーはため込むと良くない。




2011年3月26日土曜日

援助職の専門家向け,トラウマ回復モデル(転用)

以下の内容をpdfファイルとしてダウンロードできます。

files.me.com/rolfer/mji2k9


トラウマ回復モデル(The Trauma Resiliency Model)


被災地支援のためのガイドライン

トラウマリソース研究所(TRI)

共同創設者・共同ディレクター

エレーン・ミラー・カラス(ソーシャルワーカー)


難民キャンプを訪れた際、ハイチ大地震生存者の一人である若い女性マリーは、地球が爆発し彼女の人生が根本的に変化して以来、ずっと気分が悪いとクレオール語で語った。彼女は不眠、腹部の不快感、頭痛を訴え、しばしば足が弱々しく感じると報告した。心臓の鼓動が速すぎて常に疲労困憊していた。気分の変動が激しく、絶望、罪悪感、怒り、悲しみ、悲嘆や恥の感覚に悩まされていた。彼女はさらに、忘れっぽくなり、現在と未来を混同する感じがすると話した。彼女は恐怖や、友人たちから聞いた女性達に対する暴行の詳細を語った。不幸なことに彼女の父親と婚約者がポルトープランス(ハイチの首都)の崩壊で死亡したと、涙ながらに話した。彼女が述べたこうした症状は、ポルトープランスで起きたような規模の自然災害の後にはよくみられるものである。これらの症状は過去5 年間にタイ、中国、ニューオリンズやアフリカの大災害での生存者の間でも観察された。この論文では、大災害に対する人間の一般的な反応と、このトラウマ回復モデルが、簡単な生物学的介入と心理教育によっていかに個人のバランスを取り戻す助けとなるかを探っていく。ショックトラウマとは、人の対処(コーピング)能力を圧倒してしまう出来事を指す。広範囲に及ぶ死と破壊を目の当たりにする強烈な体験は、人間の存在そのものにかかわる性質を持つ。その体験の最中、出来事があまりに急で速いスピードで起きたため、人がそれに対処できる能力は圧倒されてしまう。生存者は頻繁に、強烈な感情を伴う崩壊と分裂の内的な感覚を訴える。

生存者はしばしば、個人の安全が失われ、「作り替えられた」自分について語る。多くの場合、大規模な社会構造の変化が起こる(家族や友人の死傷、自宅の喪失、教会やショッピングセンター、公園といった地域の集会場所の喪失など)。深淵な生存者の罪悪感が自己の存在の中核まで刻み込まれることも少なくない。罪悪感と、それに関連した恥の感覚は、ゆがめられた考えや信念として現れたり、身体症状として現れることがある。生きたい気持ちと死にたい気持ちの内的な葛藤を同時に感じる生存者もいる。

2011 年3 月11 日に起きた日本での地震、津波、そして迫り来る原子力被害は未曾有の出来事である。生存者の神経系を安定させるための援助は、彼らがバランスを取り戻し、生活を再建できるようになるために何よりも必要である。Bromet(2011)は原子力災害が精神保健に与える影響に関しての先駆的な研究者の一人である。Bromet は、人々がいったん放射能にさらされたと思い込むと、彼らの健康に関する不安はなかなか消えない事を発見した。見えない脅威からの副作用について十分に知らないという慢性的な不安が起こる場合がある。親は子供の発育に関して、放射能が悲惨な病気を引き起こすのではないかと心配する。チェルノブイリ原発事故の後、避難した人々が大きな社会的烙印を押された事が分かっている。人々は彼らを怖がり、彼らが放射能で汚染されていると思い、彼らの存在が他の人々を汚染するかもしれないと考えた。Bromet はさらに、被災者は新しいコミュニティーで受け入れられず、親たちは自分の子どもたちを避難してきた子供たちと遊ばせたがらなかったと述べている。Bromet(2011)はまた、原子力災害後の3つの主要な精神衛生面での問題は、不安、鬱と心的外傷後ストレス障害(PTSD)であるとしている。「この問題における独自の特徴は、放射能が原因の健康不安である。問題はどれだけの放射能が漏れたかではない——放射能が漏れたという事実そのものが問題となる。常にそれが最も大きな恐怖のひとつになる。日本ではこれがあまりにも多くの恐ろしい出来事の文脈で起こっているため、健康不安がさらに大きな位置を占める可能性がある」。従って、一刻も早い介入が不可欠である。


新しい見方——生物学的な視点


破壊的な出来事の後に人間の神経系に深く刻み込まれる体験には、生物学的な根拠がある。心的外傷のストレス反応は、多くの生存者にとって常に内的な素地として働くことがある。神経系の覚醒状態は、その人の世界観に影響を与え、それが原因となって攻撃性や暴力から分離や鬱に至るまでの様々な行動を招く可能性がある。調節不全の状態は心的外傷体験から生み出され、些細な刺激でさえも活性化を招くことがある。自律神経系の調整不全は、個人の心身の内部でのバランス感覚の欠如という結果を引き起こす。

もしトラウマがかなり深刻かつ/あるいは繰り返し起こった場合、調整不全の神経系はその人の内的な体験を消耗させるだろう。Scaer(2005)は、トラウマ的な単一の出来事あるいは一連の出来事が起こった後には、成人、子どもを問わず、通常は耐えられる生活上のストレスに対して過剰な反応を体験し、その結果繰り返し交感神経の過剰覚醒を起こすと述べている。コルチゾールなどのストレスホルモンが身体内で大量に分泌されるのである。

Scaer(2005)はさらに、ホルモンの役割に言及している。コルチゾールのようなホルモンはトラウマ体験の後の反応を発達させる役割を果たす。彼は以下のように述べている。

「コルチゾールは、脅威やストレスにさらされた動物が、その脅威やストレスに対処し耐えられるように備える。もしストレスや脅威が非常に長く持続すると、コルチゾールは脳の活動を刺激し、警戒状態を高め、その結果不眠を引き起こす。コルチゾールは有害な副作用の長いリストを持つ……高レベルのコルチゾールは免疫系を抑圧し、リンパ節と胸腺の退化や萎縮を引き起こすことで、ストレス下にある動物を感染させやすくする。コルチゾールはまた、胃酸の分泌を増加させる。胃酸の逆流……はストレスによくある症状である。ストレスは主に……防衛の準備状態が比較的長引いた状態に脳が適応しようとした結果、血清コルチゾールの値が上昇したことに関連している」一連の症状についての心理教育をすることで、生存者はトラウマへのストレス反応を、よくそう思われるような人間的な弱さ(「自分がおかしくなっている」)から来るのではなく、圧倒させられる出来事への生物的な反応のひとつ(「桁外れの出来事に対して人間らしく反応しているだけだ」)という風にとらえ直すことができる。日本の場合、生存者たちはおそらく、自分の症状がトラウマ的ストレスなのか、それとも原発被害からの影響なのかとまどい、更なる困難を抱える可能性があるだろう。

生存者の全員がトラウマ的ストレスの症状を発達させるわけではない。トラウマ的な出来事のあとでも回復力は豊富にあり、大きな苦しみにもかかわらず、人間的な親切心や寛大さはしばしば増幅するものである。多くの生存者は、大惨事のあとで人生の意味がパワフルに深まったことを報告している。トラウマ的な出来事の直後にいかに他者を助けたかを表現しながら、強さや勇気の感覚を報告する人もいる。自分の信仰が強化されることもあるだろう。生存者の多くは、命そのものや、彼らの身近な生き残った人々に対するより深い感謝の念を表現している。


トラウマ回復モデル(TRM)の主要概念


TRMは、トラウマ的ストレスの症状を軽減させるための具体的なスキルを提供するものである。

治療の目標は、クライアントが神経系の基本的な仕組みを理解できるよう助け、心身のバランスを取り戻すための特定のスキルを教えることである。このバランスは、「回復ゾーン」と呼ばれる。身体には本来、自然な回復力が備えわっている。私たちが身体的かつ/または心理的な危機に直面すると、人間の身体は自動的に本能的な防衛反応を起こす。自律神経系の交感神経部門が活動を開始し、その結果呼吸や心拍が加速し、ストレスホルモンが生存のために活発になる。脅威が去ると、自律神経系の相補的な部門である副交感神経がバランスを取り、呼吸や心拍が遅くなる。人によっては、トラウマ的な出来事があまりに大きく、あまりに速い速度で起きたために圧倒されてしまい、神経系が自然のリズムに戻れないことがある。

人が交感神経の過覚醒の中で「高い状態で行き詰まる」と、慢性的な不安、パニック、激怒かつ/または多動になる。逆に神経系が「低い状態で行き詰まる」と、うつ、断絶、疲労、麻痺の深みにはまってしまう。車のアクセルとブレーキを同時に踏んだ時のように、両方のシステムが同時に行き詰まったときは、凍りつき反応と呼ばれる反応を引き起こす。それはヘッドライトを浴びた鹿の目つきや、軍隊におけるいわゆる「1000ヤード(約900メートル)の凝視」である。人が「凍りつき」反応にあるときは、時間の流れが遅くなり、恐怖や痛みが減少する。それによって生存の可能性が増える人もいれば、そうではない人もいる。戦うか逃げるかという自動的な防衛反応が完了できず、かつ/または凍りつき反応に入ってしまうと、生存のためのエネルギーは身体にロックされ、神経系に閉じ込められてしまう。この「閉じ込められたエネルギー」こそが、トラウマ的ストレスの症状を引き起こすのである。TRMの技法は、この閉じ込められたエネルギーを解放し、神経系をリセットして心身のバランスを取り戻すのに役立つ。

TRMは、身体的、すなわち身体に主眼を置いたアプローチである。トラウマは「話すことで解決」はしない。なぜならトラウマは我々の原始的な防衛反応をつかさどる脳幹に刻み込まれ、脳のこの部位は言語ではなく、身体感覚のみに反応するからである。TRMメソッドが、トラウマ的な出来事を語ってもらうことを必要としないのはこのためである。TRMは、今ある身体症状に働きかけ、自分が本来持っている癒しの能力に気付けるように生存者を援助することによって、心身のバランスを取り戻すことができる。

トラウマ体験を語ることは多くの人にとり大切なことではある。しかしバランス感覚に気付きを向けることで自律神経系を追跡(トラッキング)する方法を会得した人は、TRMの介入以前には語る際に常に圧倒される感覚が存在していたにもかからわず、そうした感覚を感じることなく体験を語ることができるようになる。



以下のガイドラインは、自然災害や人災による大惨事の後、生存者をどのように援助すればよいかをまとめたものである。


【TRMのガイドライン】


1.関係を築く--被災者との関係を築くために次のような質問から会話を始める。


A.今一番あなたを助けてくれているのは誰でしょう?


B. この難しい状況を乗り越えるのに、助けになっているものは何でしょうか?


C.生存者のニーズを聞くこともまた、関係を築くきっかけになる。「今何を一番心配していますか?」など。あなたは具体的なサービスについて情報を提供できる立場にあるかもしれないが、援助についての誤った希望を与えないようにすることが重要である。生存者の中には、援助者が出来る範囲以上のことを期待してしまう人もいるからだ。

若いクレオールの女性マリーは、母親と避難所の運営者から現在最も助けられていると言った。助けについて説明しているとき、彼女は深呼吸をして、彼女の筋肉が緩んでいくのを観察できた。

次のステップは、彼女にとって役に立ついくつかのスキルを学びたいかどうか尋ねることである。


2.「高/低での行き詰まり」のグラフを使い、トラウマ的な出来事の後に身体の内部で何が起きる

かについて簡単に説明する。

グラフを紹介すると、マリーは「高」での行き詰まりと「低」での行き詰まりを行ったり来たりしていることを話してくれた。彼女はこれが正常な反応だと知ってほっとしたと語った。


3.トラッキング--自律神経系について簡単に教育する。

「あなたが不安を感じているときには、心拍と呼吸が速くなり、筋肉の緊張に気づくかもしれません(交感神経)」「あなたが落ち着いているときや、より安定を感じているときには、呼吸と心拍がゆっくりになり、筋肉がリラックスしていることに気づくかもしれません(副交感神経)。あなたの感覚をトラッキングする(追跡する)ことは、あなたの気づきを、落ち着ける感覚へ向ける助けになり、それによって、あなたの神経系がバランスを取り戻すことができるんですよ」マリーは感覚を説明することができた。彼女は母親のことを考えると自分の呼吸がゆっくりになり、自分の内側がより穏やかな感じがすると言った。彼女はその変化を感じてみるように励まされた。そうすることで、彼女の呼吸はさらに深くなった。彼女はよりリラックスした感じがすると言った。


4.グラウンディング—グラウンディングは、今この瞬間の自分の身体と大地との関係に気づくことを指す。例えば、地震後、多くの生存者は「地震ショック」と呼ばれる体験を持つ。それは大地が今でも揺れているという継続的な感覚のことで、それによって心拍が速くなり、胸の痛みを含むさまざまな身体症状を引き起こす場合がある。生存者にグラウンディングのエクササイズを指導することで、地震ショックを軽減/消滅させることができる。それは、より本来の自分らしく感じ、自律神経系がバランスを取り戻すための第一歩である。


グラウンディングのエクササイズ


 楽な姿勢を見つける

 床、いす、ソファがいかにあなたの身体を支えているかに気づく

 身体の中でもっとも支えられている感じがする部分に気づく

 身体がいかに支えられているかに注意を向けながら、自分の内側で何が起きているかに気づく

 あなたの気づきを足に向け、地面がいかに足を支えているか気づく(よりグラウンディングを感じるためにタッチを必要とする人もいる。例えば、相手の足の上や横に優しく自分の足を置いてあげる)

 再び、内側に何が起きているかに気づく

 もし不快な感覚に気づいたら、身体の中で普通な感じがしたり、少しでも楽に感じる部分に注意を向ける

 身体全体に注意を向け、このエクササイズを始めてからより楽に感じたり、普通な感じになった感覚に気づく。エクササイズを終えるにあたり、少し時間を取ってそれらの感覚に気づいてみる。マリーはグラウンディングすることができ、地震が起きて以来はじめて足がしっかりした感じがすると報告した。もしその人がグラウンディングしづらいようであれば、資源づけ(下記参照)を試すことができる。人によってはイメージを深めてから身体を感じる方が上手く行くからである。


注:援助者は生存者の自己調整能力にアクセスする必要がある。もし誰かが身体を感じることが出来ない場合、その人はTRM のスキルに取り組む準備が出来ていないのかもしれない。我々はグラウンディングや資源づけのスキルを用いて彼らの準備具合のアセスメントを行う。


5.資源づけ(リソーシング)——内側と外側の資源(リソース)を見つける。

 外側の資源を見つけるための質問̶̶あなたの人生の中で、あなたを落ち着かせたり、安心させたり、安らぎを感じさせてくれる人々、場所、経験について話してください。

 内側の資源を見つけるための質問̶̶あなたが好きな自分の特徴は何ですか?(ユーモアの感覚、勇気、思いやり、強さなど)

あなたのことを良く知る人はあなたの長所をどのように説明するでしょうか?資源が出てくるにつれ、生存者はその一つについて細部まで詳しく説明するよう尋ねられる。資源についての情報がさらに語られるにしたがって、資源を説明しているときに自分の内側で何が起

きているかに気づいてもらう。たいていの場合、資源はさらに深いリラクゼーション状態を引き起こす。相手が気持ちよい感覚について語る時に、援助者は相手にその感覚をトラッキングするように励ます。


6.自分が生き延びたストーリーを話すことが役に立つ人もいる。活性化を減らし、生存者の再トラウマ化を避けるために、異なった方法でストーリーに取り組むことが重要である。ストーリーの最後から語ってもらうようにすること。それによって、その人は現在の瞬間に自分たちが生き延びており、自分にとって重要な人たちの中にも生き延びた人がいるということを知ることができるからである。

 あなたが生き延びたと分かった瞬間について話してもらえますか?

 家族や友人の中で他に誰が生き延びましたか?彼らが大丈夫だったと知った瞬間を思い出すことができますか?

援助者は、生存者が生き延びた瞬間を思い出したときや、家族のメンバーや友人が生き残ったと知った時に出てきた感覚に気づくよう励ます。中には、家族の消息が分かるまで自分自身が生き残ったという感覚を持てない生存者もいるだろう。マリーの話は非常に痛ましかった。彼の父親と婚約者が地震で亡くなった。マリーは生き残った自分の母親と親友の一人について話すことができた。彼らが生き延びたと知った瞬間について説明しながら、彼女は笑みを浮かべ、深呼吸し始めた。援助者は、彼女がその瞬間を思い出すと自分の内側で何が起きるかに気づいてもらった。するとマリーは父親と婚約者の死を知った時のことを思い出して泣き始めた。彼女は痛みと涙を表現した。涙を流す彼女のそばに援助者が座っていると、ほどなくして彼女の思考は自然にシフトし、母親と友人のことを考え始めた。彼女の神経系は再び落ち着いた。彼女は「これはとてもつらいけれど、私にはこれをくぐり抜けるためのサポートがある」と話した。彼女がこう言った時、援助者は彼女に「私はこれをくぐり抜けるためのサポートがある」という言葉を繰り返してもらい、その時に内側で何が起きるかに気づいてもらった。彼女がその言葉を繰り返すにつれ、彼女の呼吸は深まり、彼女は心拍が遅くなったことを報告した。生き延びた人々のことから話を始めた時、マリーは、心地よさの内的な資質を広げることができた。そして失った人々について話したとき、彼女は圧倒されずに彼らの話をすることができたのである。


7.クライアントにトラウマ体験が起きた日のことについて話すように勧めることができる。

 あなたの体験について話したいですか?

 自分の体験について話したくないという人もいるだろう。グラウンディング、資源づけ、生

き延びたストーリーに取り組むことが、生存者が耐えられる精一杯のワークかもしれない。

このようなワークの方法は、彼らのストーリー自体に直接取り組まなかったとしても、神経系を安定させる上で非常に助けになる。

 生存者がトラウマ体験について話したがったら、活性化のサイン(速い呼吸、筋緊張など)

に注意する。生存者が活性化し始めたら、話を「一時停止」する。生存者に、彼らが不安にならないような別の方法でストーリーを語る手助けをしたいと説明する。「あなたがもっと落ち着いて話したいことをすべて話せるような助けになる方法をいくつかお教えしたいの

で、ここでちょっと話をお休みしてもらってもいいですか?」

 生存者の気づきを、グラウンディング、外側や内側の資源、身体内のより落ち着いている、あるいは特に何も起きていない場所に向ける。神経系が落ち着いてより大きなバランスを取り戻すにつれて、生存者に中立の感覚やバランスの感覚に気づいてもらうことができる。それから話を続ける。このプロセスは、生存者が話したいだけの話を全部話すまで繰り返される。多くの生存者にとって、これは圧倒されることなく自分のストーリーを語ることができた初めての体験になるだろう。心身が異なるやり方でストーリーを語り終えることができると知ることは、彼らを力づける体験になることだろう。

マリーのケースでは、今この瞬間に彼女が持つサポートを感じた後は、彼女は地震について話したいという欲求を持たなかった。これは常にそうであるとは限らない。自分の体験について語る必要がある人もおり、それが自分のトラウマ体験をさらに消化する方法なのである。TRM の援助者に導かれるとき、ストーリーは神経系を圧倒しない方法で語られることが可能になる。


8.トラウマのフラッシュバック

音やにおいは、トラウマに関連する覚醒や脅威反応を活性化する引き金になり得る。トラウマ的な出来事の音やにおいのイメージはまた、「何の前触れもなく」起こることがある。侵入的な音やにおいのイメージとワークするときは、生存者が中立または相反するような音やにおいの体験を作り出せるように助ける。地震や津波の音が耳を聞こえなくすることもある。

 心地良い音/におい(お気に入りの音楽、自然の音/におい、好きな食べ物のにおいなど…)の記憶を思い出すことができますか?

 防音室にいる自分をイメージすることで、その音を和らげることはできますか?

 身体の中に音量調節のつまみがあるのをイメージして、その音量を下げることはできますか?

 あなたをその音/においから守ってくれるために欲しいものをイメージしてみましょう。それはどんなものでしょう?

 その音/においから、好きなだけ、または想像できるだけ離れてみてください。クライアントが音/においを変化させるようなワークをするときは、クライアントに「音が和らいだり、匂いが中立/心地よいものに変わったりするにつれて、内側にどんな変化が起きるか気づいてください」と促す。

視覚的なイメージはトラウマのフラッシュバックの引き金になることがある。トラウマ後に何の前触れも無く現れたり、常に継続して現れていたりする。トラウマ的なイメージの視野を広げたり狭めたりすることは、生存者が回復ゾーンにアクセスするのに役立つ。例えば、「そのイメージから自分ができるだけ遠ざかっていくのを想像できますか?」「視野を広げてみると他には何が見えますか?」など質問することができる。


9.放射線被ばくのため、生存者は、自分の身体内に圧倒されるような恐怖があり、どこへも逃れることはできないという感覚を覚えているかもしれない。ここで大事なのは、彼らがグラウンディングしたり、資源づけられたりしたときに感じる自然なリズムを体験できるよう助けることである。彼らの心配を完全に取り除くことはできないかもしれないが、不安の大きさを軽減できたとき、生存者は自分の内側を制御できるという新たな感覚を感じることができるかもしれない。


10.生存者との時間を終える際には、日常生活の中でトラッキング、グラウンディング、資源づけというスキルを使う彼らの能力を強化するようにする。生活の混乱がこの先何週間、何カ月、あるいは何年も続くことになる人もいるだろう。生存者が自分の身体内での心地よさを体験し感じる時間が増えれば増えるほど、大災害の余波に対処できる彼らの内的能力は拡大することだろう。人災または自然災害の後に起こる、何重もの喪失体験に対する悲嘆を簡単にくぐり抜ける助けになるような魔法の方法は存在しない。それでも、身体に備わってる自然治癒力の仕組みを人々が理解できるように助けることで、生存者は喪の作業をくぐり抜け、回復へと向かうことができるのである。


参考文献


1Bromet,Evelyn,CNN,March16,2011 “WillJapanface aMental Health Crisis?”


2 Scaer,Robert,Trauma Spectrum, 2005,Norton&Co,New York


(翻訳協力/浅井咲子・足立万里・大野誠士・熊谷珠美・白戸あゆみ 監訳/藤原千枝子)



2011年3月21日月曜日

災害直後のトラウマ予防ケア (転用)

ピーターと彼の同僚ジーナ・ロスが書いた、「災害直後のトラウマ予防ケア」を藤原千枝子さんが翻訳されたものが送られてきましたので,転用します。
以下のサイトから,pdfファイルをダウンロードできます。藤原さんからどうぞご活用くださいとのご厚意を頂いています。

ファイルをダウンロード


災害直後のトラウマ予防ケア

大震災のようなトラウマ的な出来事が起こると、私たちの安心感と、将来を予測できるという感覚が脅かされます。これによって私たちの中の強い身体的・感情的反応が引き起こされることがあります。こうした反応は正常です。災害直後のトラウマ予防ケアは、あなた自身、家族、友人たちがトラウマ的な出来事を目撃したり、聞いたり、実際に体験したことに対して、どのような援助ができるかについての情報を与えるものです。

やるべきこと、やってはいけないこと
身近な人の安否をできるだけ早く確認するようにしましょう。必要な情報を得るため、ニュースを一定の時間だけ視聴し、それからテレビやラジオをしばらくの間消しましょう。さらに情報を得るために、2時間ごとにテレビをつけてもいいですが、そこで繰り返し流されるトラウマ的な映像には引き込まれないようにしましょう。こうした映像は、我々を取り込む並はずれた力を持ち、後で気分が悪くなることが分かっていてもスクリーンの前から動けなくしてしまいます。テレビを見続けたいという誘惑に抵抗しましょう。
孤立してはいけません。家族や友人で集まり、お互いをサポートしましょう。身近な人の理解やサポートによって、私たちははるかに早く悲劇に対応できるようになります。たとえ私たちが他の人よりもうまく対処できているとしても、他の人の恐怖と無力感を認めることは何よりも大切なことです。ショックな出来事に対する人の反応はそれぞれ異なります。正しい反応、間違った反応があるわけではありません。
あなたの反応が自分だけ、あるいは友人の助けだけでは対処しきれないほど強いと感じる場合は、専門家の助けを求めましょう。これはあなたがおかしかったり、弱かったりするということではありません。
何もやることがないという時間を持たないようにし、なるべく計画的なスケジュールを立てましょう。
近所のYMCAや教会などの集会所でグループを組織し、集まりましょう。
自分の持つリソース(資源)、つまり自分を落ち着かせたり、強く感じさせたり、より地に足がつくように感じさせる助けになるようなものに何でも注意を向け直すことが重要です。人、活動、場所といった自分のサポートシステム全般に注意を向け直しましょう。映画や編み物、庭いじり、料理、子どもやペットと遊ぶ、自然の中に行くなど、自分が没頭できることをやってみましょう。
自分の感覚、感情、考えを書き出しましょう。書くことで不安を解放し、コントロールを取り戻すのに役立ちます。
十分に休息しましょう。非常時はアドレナリンに 突き動かされ、身体を疲労困憊させがちになるので、意識的に休みましょう。
他の人や自分に、トラウマを深めることになるような反復的な方法で自分の体験を語らせないようにしましょう。代わりに、この悲劇/大惨事についてお互いに聴き合うサポートをしつつも、始めから終わりまでを全部一度に話さないようにします。自分が感じている感情を、たとえ嫌なものであっても感じるようにしてみましょう。怒り、激怒、復讐心は人災の後に起こる非常に自然な反応です。自分の感情を感じ、それを理性的な枠組みの中で表現しましょう。これによって、自分を圧倒することなく感情を感じることができ、強迫的思考にとらわれないですむようになります。
感情は行動ではありません。生産的な行動を取るようにしましょう。
活動を続け、病院でのボランティアや、献血をしましょう。お金を寄付したり、被災者のヘルプラインで援助することもできます。トラウマを受けた友人や家族の話に、もし彼らが怒っていたり、責めたりしても批判することなく耳を傾けてみましょう。彼らが一人になれるよう、彼らの子どもを預かったり、家事を手伝ったりしてみましょう。

心理的な反応
悲劇が起きると、人はさまざまに異なる反応をするものです。順番にそれをすべて感じてみましょう。悲嘆や受容の前に、多くの場合最初はショック、次に否認、怒り、うつを感じます。
しばらくの間ショック、茫然自失、解離状態にある人もいるでしょう。彼らは時間感覚、場所の感覚、あるいは人との関係が分からなくなったりします。麻痺していたり、恐怖や痛みから切り離されたように感じる人もいるでしょう。
恐れや深い悲しみ、不確実感や無力感を感じることもあるでしょう。こうした感情は正常なものであり、やがて消えていくでしょう。
混乱したり、うまく思考や集中、記憶や問題解決ができなくなることもあるでしょう。うつ、疲労、休息できない、どこかへ消えてしまいたい感じもするかもしれません。こうした感情は、長く続かない限りはすべて正常です。
動揺したり、不安、過度に警戒したり、いらいらしやすかったり、感情をコントロールできなくなることもあるでしょう。そのような時は自分を落ち着かせてくれる創造的な表現活動に従事してみましょう。家族や友人と共にいることは、落ち着く助けになります。
疑心暗鬼になったり、被害妄想に陥ったりすることもあるでしょう。激しい怒りや、反社会的行動に参加したくなったりもするかもしれません。非常に批判的になり、すべての人を責めたくなったりもするかもしれません。友人と話し、自分の印象が正しいかどうかをチェックし、彼らと分かち合えないようなどんな行為にも従事しないようにすることが大切です。
子どもたちは、まとわりついてきたり、怖い夢を見たりする場合があります。腹痛や頭痛を訴える子どももいるでしょう。代わりに攻撃的な行動を取る場合もあるかもしれません。これは正常なことです。何日間かこうした状態が続くかもしれませんが、そのうち終わります。彼らは安心で守られていると感じることが必要なのです。

身体的な反応
この種のストレスに対して、身体的な反応が出ることは自然なことです。なのでこうした反応を怖がらないようにしましょう。「活性化」のサインを認め、それを怖がらないことが大切です。
心拍が速くなる
呼吸困難
血圧の上昇
胃が縮む、喉がつかえる
筋肉の震え
皮膚が冷たくなり、思考がぐるぐるする
上記のような反応に抵抗しなければ、やがて消えていきます。
睡眠困難や、過食や、塩辛いもの・甘いものを食べたくなったり、アルコールやドラッグを過剰に摂取したくなったりするかもしれません……最良の「解毒剤」はこれらやその他の衝動に気づき、自分は深く動揺しているのだという事実を受け入れることです−−それによってこうした感覚は消えていくでしょう。
人によっては、未解決の古いトラウマが再度呼び起こされるかもしれません。安心感と信頼感が揺るがされたかもしれません。彼らには自分の名前、実際の年齢、今日の日付と場所を思い出してもらう必要があります。
人々の症状は多種多様であるでしょう。こうした症状はずっと続くことも、現れたり消えたりすることもあります。ひとまとまりの症状群として起こることもあります。

役に立つ反応
私たちは、自分たちの神経系が過剰に刺激されたときに、どのようにそれらを解放するかを理解することで、神経系のバランスを取り戻すことができます。以下はその例です。
震え、発汗
身体の温かさ
お腹が鳴る
深い呼吸
泣く、笑う
こうした反応は良いものです。つまり、エネルギーのいくらかを解放し、バランスを取り戻しつつあるということです。私たちがやるべきことは、ただ身体に何が起きているかを、批判することなく観察することです。自分たちがどう感じるかをただ感じるままにして、それがやりたいことをやるだけの時間を与えてあければ、身体は自らバランスを取り戻す内的な力を持っているということを理解するだけでいいのです。

やるべきこと
「グラウンディング(地に足をつけること)」し続けることが非常に重要です。もし方向感覚を見失ったり、混乱したり、取り乱したり、信頼できない感じがしたら、以下のエクササイズをやってみるといいでしょう。
椅子に座り、地に足がついているのを感じます。太ももを押し、座面に触れるお尻を感じ、背中が椅子に支えられているのを感じます。周りを見回し、赤か青の色がついているものを6つ選びます。これにより今この瞬間にいること、より身体が地についていることを感じられるようになります。呼吸がゆっくりと穏やかになっていくのに気づきましょう。外に出て草の上に静かに座りたくなるかもしれません。地面に座りながら、大地にお尻が支えらているのを感じてください。
次に紹介するエクササイズは、身体が感情を囲い込む「入れ物」として感じられるようになるためのものです。身体の各部分を手でやさしくぱたぱたとたたいてみましょう。手首に力を入れないようにしましょう。あなたの身体がよりちくちくしたり、生き生きしたり、はっきりと感じられるかもしれません。感情によりつながりやすく感じられるかもしれません。
もう一つのエクササイズは、部位ごとに筋肉を緊張させることです。胸に腕を巻き付けて肩を抱き、しっかり握り、腕を上から下までたたきます。同じことを足でも行います。足を緊張させ、外側からつかみ、足を上から下までたたきます。背中を緊張させ、身体の前を緊張させ、それからゆっくりと緊張をゆるめます。これによってあなたや周りの人がよりバランスを取り戻す助けになるでしょう。
スポーツや、エアロビクス、ウエイトトレーニングは、うつ状態の回避や攻撃性のはけ口として役に立ちます。

もしあなたが、祈りや、偉大な力を信じているのであれば、犠牲者の魂の安らぎや、負傷者の回復、悲嘆からの癒しを求めて祈りましょう。平和、理解、英知、善なる力が繁栄することを祈りましょう。存在の基本的な善性に対する信念をあきらめず、人間性への信頼を保ちつづけるようにしましょう。
最後に、私たち人間は非常に回復力のある存在で、これまでに起こったどんな恐ろしい悲劇からも復活してきました。さらに、私たちがトラウマを癒し、その可能性に心を開くとき、私たちにはトラウマによって自分たちを変容させる力が備わっているのです。
(文責:ジーナ・ロス/ピーター・リヴァイン。 本文の内容はトラウマ療法ソマティック・エクスペリエンスなど複数のメソッドに依った。訳:藤原千枝子 文中の強調は訳者による)

2011年3月15日火曜日

災害時のメンタルヘルス(転用)

SE仲間の臨床心理士,角田みすゞさんがまとめられた"自分を落ち着かせる方法"をそのまま転用します。とても参考になりますので,周りの方にご紹介ください。

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災害時のメンタルヘルス
(自分を落ち着かせる方法)

大変大きな災害が発生いたしました。東日本の親戚や友人、被災した方を思い、心を痛め、心配な時間を過ごしている方は多いと思います。被災された皆さまとその後家族、ご友人の皆さまに、心からお見舞い申し上げます。

震災から派生する二次的な災害も起こっており、皆さま心配も大きいと思いますが、まず、ご自身の安全を確かめ、自分を落ち着かせて下さい。これは、援助者・世話をする立場の人にとって、一番大事なことといわれています。ミラーニューロンというものがあって、「落ち着いている」神経は、「落ち着きをうつす」ということがわかってきています。まず、自分が落ち着いていることが、周囲の人にとって役に立ちます。
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息を詰めて、呼吸をしていなかったり、肩や首、歯を食いしばって、力が入っていることはないでしょうか? 緊張しているところにほんの少し意識を向けて、それが、和らいでくるまで時間を取って見ましょう。息を吐いて、次に自然に空気が入ってくるのを待ってみて下さい。 あるいは、「わたしは大丈夫」と声にだして、または、心の中でつぶやいて、自分自身で自分の腕や、おなか、足を触ってみることや、自分を抱きしめることは、自分を落ち着つかせるために役に立ちます。 のどとみぞおちの間の胸の上に手を置き、その温度と重さを感じてみます。そのまま、少し、自分のために、静かな時間を取ってみましょう。そうしていると訪れてくる、自分の落ち着いている感覚を、カラダに覚えさせてみてください。
大人の方は、この感覚をもって、子ども(周囲)に関わってみてください。
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ふらつく感覚や、麻痺した感覚、興奮した感覚や行動がおこるのは、高いストレス時には正常なことです。 そのことに気づき、休息(目を閉じる、自分の身体にきづく・触る、横になる、情報を遮断する)をとるようにしてみてください。

テレビからの情報収集は、不安や緊張など、さらなる活性化(緊張や不安、疲労の引き金)を引き起こします。視覚情報は、そこから離れることを難しくするという特徴もありますので、できるだけ、ラジオからの情報収集をお勧めします。

不安になっている人が周囲にいるとき、援助や世話の仕事をしている人は、よりアドレナリンが出やすく、心身が活性化しやすいといわれています。このエネルギーは、発散されないと、無力感を強くしたり、心身の不調のもとになるといわれています。

この(緊張・不安)エネルギーを発散することは、日常生活を送ることや、心身の疲労の回復にとても役に立ちます。
大人にとっても、もちろん子どもにも、動くこと(散歩・買い物に行く、料理をする、運動をするという生産的なことから、歩き回る、歌う、・・など、非生産的なことまで)、遊ぶこと、笑うこと、声を出すこと、泣くこと、涙を流すことなどは、発散を助け、これからの日常生活や回復をより簡単にします。

ききわけのよい子どもは、我慢してエネルギーをため込みやすいので、触られるのをいやがらない子どもは、時々、目を合わせてにっこり笑ったり、頭や背中をなでてあげること、抱きしめてあげることはとても役に立ちます。

責任感の強い人は、頑張りすぎたり、休むことを自分に許さなかったり、災害弱者に共感しすぎたりして、肉体的にも精神的にも疲弊しやすいことが知られています。また、被災者への罪悪感から、楽しむことや笑うことなど自分の世話をする活動を自粛してしまうこともよく起こる行動です。また、怒りを感じやすくなったり、感情の起伏が普段より大きいときも、配慮が必要な合図かもしれません。それらのことは、ストレスが強いときに一般的におこるものですので、そのことを伝え、休息をとるように周囲からそっと促してみて、応じるのを待ちましょう。無理強いは禁物です。関わるのが難しいときは、少し距離を取って、まず関わりをもとうとしている自分を、落ち着かせることから始めましょう。

上記を試して、まず自分そして家族や周囲のコミュニティを、落ち着かせてみてください。

周囲の人にも、まず、自分の安全確認、まず落ち着くことが一番大切であることを、広げていって下さい。ちょっとずつ、自分と家族とその周辺から、落ち着きの輪を広げていきましょう。みんなでつながって、のりきっていきましょう。

祈りとともに

臨床心理士 角田みすゞ
平成23年3月15日



<参照・引用文献>
災害メンタル・ヘルス支援 西尾和美Ph,D
Mitchell, Jeffrey T. & Everly, George S. Critical Incident Stress Management (CISM): Group Crisis Intervention
トラウマ療法であるソマティック・エクスペリエンス®(SE)の療法家(米国在住)から届いたサポートメールをSEプラクティショナーであり臨床心理士の藤原千枝子がまとめたもの 他

震災に際しての注意点

震災によるトラウマ的悪影響から回復するための情報をお伝えします。

○必要な情報以外は意図的に見ないようにする。

 →TVの悲惨な衝撃映像を繰り返し見ると神経系が高ぶったままになってしまう。パソコンやTVからの刺激とその情報のネガティブな側面からの影響で,眼に関わる筋肉に慢性的なストレスが加わりやすい。それが,首/肩の緊張へと連鎖し,呼吸が浅い状態へ。Peter Levine博士曰く,地震の後では,地面を敵とみなし,グラウンディングしにくくなる。それによって気が上がった状態になりやすい。このネガティブな連鎖の元である,視覚を通しての悪影響をまず絶つこと。人間の性質として,全く震災の影響を受けなかった生存者は,罪悪感と無力感を感じやすい。
目を休めるには,眼球の重さを眼窩に感じることが大切。2人いる場合には,一方が他方のつむった眼の上の内側の端上を極めて軽いタッチで触ると,それを感じ易い。眼が眼窩に少しでも落ち着くとそこから影響が及んでいる緊張が解放されます。

○休息の時間をしっかりとって,自分が安心したりサポートを感じる何か,事/物/人と交流する時間を大切にする。
 
→意識的に休む時間を確保し,神経系を落ち着かせることが大切。一人神経系が落ち着いた人間がいれば,それが周囲の活性化した神経系を鎮静させることにつながる。横になったときに,床や台,ベッドが自分を支えてくれている感覚を感じてみる。ゆだねる感覚が休息の質を向上させる。特に子供は敏感なので,TVによって知らない間にトラウマ化されている。寝ている時にそっと固まっているところに手をおいて,布団やベッドにゆだねやすいようにしてあげると様々な解放が起きます。

○歩いたり,外の空気を吸ったりして,身体を実際に動かして,希薄になった感覚を自分の身体に戻す。

 →災害に遭った後,逃げる/防御するなど身体の衝動に沿って神経系の高ぶりによるエネルギーを発散させて人達は,そのことがトラウマ化せず,心身ともに健康であるという観察データがある。直接的な被害に遭う遭わないは関係なく,身体を実際に動かすことはとても重要。先日一人のクライアントの方は,ずっと震災後家に籠もって心身のバランスを崩したが,思い切って外を歩いてみたところ,気分が晴れてきたことを語ってくれた。

○焦って何かをする前に自分の神経系をまず落ち着かせて,ペースをスローダウンし,災害以前の日常を可能な限り再開し,現実で得られていたものとのつながりを回復させる。

 →スローダウンするのも交感神経の沈静化に役立つ。目の前にある日常,例えばいつもいっているカフェでコーヒーを飲んで,店員さんと一言二言話すだけでも違う。ネット上でやりとりするより,思い切って電話の肉声を聞くと頭で空回りすることが整理されたりする。

役立ちそうだったら,やってみてください。

みなさんの身体に起きている神経系の高ぶりが少しでも落ち着きますように!

以上の情報は,Somatic experiencing®のコミュニティからの情報(藤原千枝子さん他)をもとに,身体的な観点での知見を加えて記述させて頂きました。